Daydream Believer 2日目 - M観光ホテル(後半) -

M観光ホテル



灼熱の中の登山。ハイキングコースとはいえ、傾斜はかなりキツい。
だが、俺は登りきる自信があった。
実は、この日、この時だけのために毎日2キロの走りこみ修行をしていたのだ。
運動からは遠ざかっていたものの、元々マラソンは得意分野だったため、2週間も続けると本来自分
が持っていた「走る楽しさ」が目覚めてきた。それも相まってタイムもグングンと上昇。疲労状態か
らの回復力も実感できるほど向上させることに成功していたのだ。
しかし、そんな自信からか、荷物が多少多くても問題ないと判断し、かなりの重装備での登山することになるのだが
それが仇となる。
一眼レフカメラ・レンズ・三脚・サブカメラ・その他カメラアクセサリ多数・手回り品・大量の水分。
装備の重さは実に7キロを超える。
歩を進める毎に、装備の重さがボディーブローのように、徐々に体力を奪う。
10分程歩いては息を整え、水分を補給する。

8月16日 14:00

そして登山を開始してから、およそ50分。ついに目的地であるM観光ホテルへ到達する。
苦労が報われた瞬間だ。


と、到達の喜びもつかの間、人影に気づく。
どうやら、有名物件だけあって先客がいるようだ。
ホテルの入り口でバッタリと男二人に遭遇する。警戒されぬよう、軽く挨拶と雑談を交える。
お互い敵意がないことを確認しあう。
続けて、男女のカップルが出現。カップルは二人ともカメラ三脚を手にしている。間違いなく同業者。
やはり、軽く挨拶と雑談。どうやら撮影を終えて下山するようだ。


男二人組みは廃墟の中へ消え、探索を開始したようだ。
自分もうかうかしていられない。こちらもすぐさま撮影準備を開始する。


探査・撮影を開始しようとホテルの階段を登る。
そして、いきなりショッキングなシーンに出くわす。
階段の踊り場にカラスの死骸が横たわっている。グロ耐性皆無の俺は、その階段を登ることができず
即座に引き返し、ホテルの内部から探索することとした。


剥がれ落ちる壁面、蹴破られたドア、割られたガラス。
建物は酷く崩壊しているが、大きな落書きもなく、天井のシャンデリアも残されている。



ホテルの周囲は木々に覆われ、擦りガラスであるため、直接的な光は入らず、間接照明のような柔らかい光が差し込む。
建物にツタが絡まるのはどこの廃墟でもありがちな光景だが、文明を飲み込まんとする自然のエナジーを感じさせてくれる。


広いバルコニーからは神戸の街が一望できる。夜まで待って夜景を撮りたいくらいだ。


8月16日 15:45

それほど広くないホテルだが、複雑な構造をしている。
ホテルを一通り見て周ってから撮影に集中しようと考えていたが、見て周っているうちに下山時刻が近づく。
もっと沢山撮影をしたい気持ちもあるが、とっとと下山してシャワーを浴びたいのが本音だ。
俺だけではなく、皆が同じ考えだった。
ここは非常に有名な廃墟であり、美しい建物だと思う。しかし、自分にとって特別な物件ではなかった。
個人的には、必死の思いで登山して到達した瞬間の充実感、疲労の果てに忽然と姿を現すホテル。
それを見た瞬間の感動がピークだった。その後は、通常の廃墟探索となんら変わりない。
廃墟マニアには非常に高評価な物件だが、この廃墟の良さは登山〜発見というプロセスなのではないかと思う。
廃墟そのものというより、冒険要素が高いという付加価値を加味しての評価。


・・・と、振りかえるとこんな評価。
この後、続々と登場する廃墟物件と比べて見劣りはしないものの、インパクトは少なかった。


しかし、屋根に食い込む航空機用のタイヤ。これは一体どのような経緯で屋根に突き刺さったんだろうか・・・




つづく。